大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和60年(行コ)6号 判決 1986年7月16日

愛知県小牧市大字小針字中宮二七八番地

控訴人

南山興産有限会社

右代表者代表取締役

冨田一子

右訴訟代理人弁護士

小久保豊

愛知県小牧市大字小牧一九五〇番地

被控訴人

小牧税務署長

竹中幸男

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

鈴木省吾

右両名指定代理人

秋保賢一

松原道雄

和田正

辻中修

右当事者間の法人税更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(当事者双方の求めた裁判)

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人小牧税務署長が控訴人に対してなした次の各処分を取り消す。

(一) 昭和五五年五月二七日付でした控訴人の先事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分については、被控訴人小牧税務署長が昭和五五年一〇月二四日付で一部取り消した後のもの)

昭和五一年六月一日から昭和五二年五月三一日まで(第五期)

昭和五二年六月一日から昭和五三年五月三一日まで(第六期)

昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日まで(第七期)

(二) 昭和五五年一〇月二四日付でした控訴人の第七期事業年度の法人税に係る更正の請求に対し更正すべき理由がない旨の通知処分

(三) 昭和五五年五月二七日付でした控訴人の昭和五二年三月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分

3  被控訴人国は控訴人に対し金一五九万九七二〇円を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決並びに3につき仮執行の宣告。

二  被控訴人ら

主文と同旨の判決。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決八枚目表九行目、一〇行目、九枚目表三行目の各「順号」をそれぞれ「土地番号」と改め、別紙一二「契約当事者一覧表」不動産番号4、5の契約当事者中「冨田治朗、冨田一子、」をいずれも削る)。

(控訴代理人の陳述)

一  本件各契約は「金銭消費貸借契約書」という標題にもかかわらず、民法上の組合契約であつて、匿名組合契約ではない。即ち、本件においては、出資者が特定不動産を購入し、当該不動産を利用・売却して利益をあげる事業をなすことを目的として共同で出資し、名義及び日常業務は控訴人がその名で行ない、利益は出資割合に応じて分配するというものであつて、これは民法上の組合というべきであり、しかも、各不動産購入の際の出資ごとにそれぞれの出資者間で成立した複数の組合である。

そして、次のような民法上の組合に関する成立要素を検討してみると、本件各契約が民法上の組合であることが一層明らかとなる。

1  出資について

(一) 控訴人の出資について

控訴人は各契約において現金出資をしており、かつ、不足金は控訴人の自己出資によるとして出資義務を課せられている。組合員に出資義務が課せられている契約は匿名組合でなく、民法上の組合である。

(二) 労務出資について

本件においては、利益分配の際に利益の三〇パーセントまたは二五パーセントを控訴人に留保して残余を分配する約定になつていた。そして、この保留分は一般管理費たる人件費、法人税等に充当するというものであつて、この人件費には控訴人の労務出資に対する分配金の意味が含まれていた。つまり控訴人は本事業において労務を出資するものであることが前提とされていたのである。しかるところ、労務出資は匿名組合に認められていないから、本件組合は民法上の組合であることが明らかである。

(三) 出資額または出資割合について

出資額または出資割合は組合契約成立時に必ずしも確定しなくてもよい。

2  事業について

本件事業は匿名組合の場合のように控訴人の単独事業ではなく、組合員の共同事業であつた。

3  損益分配及び清算について

本件は利益分配の約束及びその実績があつた。

4  共有について

本件各不動産が組合員の共有でないとしても、これのみで本件組合が民法上の組合でないとはいえない。

二  控訴人は昭和四九年七月二四日あるいは同年一〇月頃控訴人の第五期、第六期の土地譲渡利益の計算上、販売費及び一般管理費について、控訴人税務署長の担当職員から指導を受けたが、当該職員の氏名が分らなかつたため、被控訴人らに釈明を求めてきたところ、被控訴人らは不十分な釈明しかしなかつた。

ところで、訴訟当事者は相手方に立証責任のある事実の立証につき積極的に協力する義務はないとしても、相手方が明らかに勘違いしていることを自己のみが容易に知り得る場合、自己のみが知つている自己の目撃者の名前を告げることを拒絶するような場合、または証拠方法の入手と保管が自己の手中にのみあつて相手方はこれに対し影響力を行使することができない場合には、訴訟法上の信義則により、相手方の立証に協力する義務があるというべきであり、このような観点からすると、被控訴人らの右のような態度は故意または過失による証明妨害というべきである。

このような証明妨害の結果、控訴人は林昭春証人を特定するのに多大の努力と時間を要したばかりでなく、ようやく林証人の証言を得たときには、すでに一年余りを経過し、かつ、同人の担当する職務外の事項であつたため、同人の記憶が薄れ、立証に成功できなかつた。もし、訴訟前または訴提起後早期に林証人を特定できていたならば、その立証が可能であつたというべきである。

したがつて、右証明妨害という事実と関係書証により、林昭春が当時の担当職員から相談を受けて、控訴人の第三期以降の申告について指導した事実は、優に証明されたものというべきである。

三  冨田一子に対する金員の支払いは、冨田善美に対する支払いと同様に、借入金に対する支払利息であつて、それ以外の賞与や贈与では決してない。右借入について第五期前に利息の支払いをしなかつたのは、利率を元本返済時に定める約定であつたからであつて、このことから利息であることを否定することはできない。

(証拠関係)

本件記録仮名の原審及び当審における書証目録及び証人等目録の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人らに対する本訴請求はすべて失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正付加する外、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決二七枚目表九行目から同末行にかけての「成立について争いのない甲第三四号証の一、二、第三五号証の二ないし一一」を「いずれも官署作成部分については争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三四号証の一、二、第三五号証の二乃至九、いずれも成立に争いのない甲第三五号証の一〇、一一と、同裏七行目の「不動産番号」を「土地番号」とそれぞれ改め、同二八枚目裏末行の「契約書番号6の契約」の次に「-甲第二九号証の一-」をそれぞれ加え、同二九枚目裏二、三行目の「本件証拠上、」を「いずれも当審証人大橋秀孝の証言により真正に成立したものと認められる甲第三六号証の一、二、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない甲第三七号証の一、二、第三八号証をもつてしても、右共有関係を認めることはできず、また当審証人大橋秀孝の証言中には、購入不動産はいずれ出資者の共有であるという供述も存するのが、右供述は本件各契約の内容に手らしたやすく信用できず、」と改め、同三〇枚目表三行目の末尾に続けて次のとおり加える。「かえつて、当審証人大橋秀孝の証言によると、控訴人の設立前においては、投資の目的で数人共同して出資し不動産を購入した場合には、出資した金額に応じた持分により共有登記が付されていたが、これでは売却する際、手続が頻雑になる上、頻繁に売買を繰り返すと宅地建物取引業法に接触するという虞れもあり、また、共有者の中に反対者がいるのではないかという懸念から生じる対外的信用も考慮して、控訴人が設定されたことを認めることができる。そうすると、控訴人は右のような問題を解消するため、購入不動産を控訴人の単独所有として、売買をすべて控訴人自身の営業活動として行なうという、法形式を単純化する目的で設立されたものであつて、出資者はそれから生じる利益の分配にのみ与えるという実質を確保したものと解せられる。」

2  原判決三〇枚目裏二行目の「五三三条」を「五三五条」と改め、同三一枚目裏一行目と二行目との間に、行を変えて、次のとおり加える。

「次に、この点に関する控訴人の当審における主張一について判断する。

控訴人は本件において労務出資をしていた旨主張する。

なるほど、前示本件各契約の内容(原判決別紙一三)によると、利益分配の際には、利益の三〇パーセントまたは二五パーセントを控除に留保し、控訴人はその中から一般管理費たる人件費及び法人税等を支出していたものと認められる。しかしながら、控訴人も一企業体である以上、利益の中から一定割合を留保し、その中から控訴人自身の諸経費を支出するとともに、残余を預金その他の資産として社内留保し、その経済的基盤の強化を図ることは当然のことであり、しかも現金を出資した者に対する分配金は出資割合に応じて厳格に計算されているのに、控訴人の労務それ自体に対しては割合ないし金額が明示されていないことも考慮すれば、前記利益中の留保をもつて、控訴人の労務出資が前提となつていたと結論するのは、牽強付会の論といわざるを得ず、控訴人の右主張は採用できない。

また、控訴人は本件事業が組合員(出資者)の共同事業であつた旨主張するが、控訴人の単独事業であつたことは前示のとおりである。もつとも、当審証人大橋秀孝の証言によれば、控訴人が土地の売買を現実になすに当たつては、出資者である大橋秀孝やその父大橋勘一が主に行動していたことが認められるが、原判決別紙一二によつて明らかなとおり、控訴人が売買した土地の中には大橋秀孝や大橋勘一が出資しなかつたものも含まれているから、同人らは仲介業者である大橋商事株式会社の代表者またはその代理人あるいは控訴人の代理人として行動していたものと解するのが相当である。したがつて、右事実をもつてしても、本件事業が控訴人の単独事業であると認定する妨げとならないというべきである。

その外、控訴人が当審において、本件各契約が民法上の組合であると認めるべきであるとして列挙する事実は、必ずしも本件各契約を匿名組合であると認定する障害となるものではないし、また民法上の組合であるとしなければならない決定的な事由でもない。

ところで、匿名組合といえどもこれを経済的にみれば、匿名組合員と営業者との共同事業に外ならないが、法形式の面からみれば、外部に対し営業活動をするのはあくまでも営業者のみであつて、匿名組合員は営業に全く関与しないのである。そして、措置法六三条の適用に当たつては、その法形式の面に着目し、本件土地譲渡により生じた利益はすべて控訴人に帰属する譲渡利益金として課税されることになるのである。控訴人の主張は法形式から生じる差異と経済的同一性とを混同しているものといわざるを得ない。」

原判決三一枚目裏二行目の「右主張」を「右各主張」と改める。

3  原判決三一枚目裏五行目の「金額をいい」の次に「(同条二項)」を加え、同三四枚目裏六行目と七行目の間に、行を変えて、次のとおり加える。

「さらに控訴人は被控訴人らから証明妨害を受けた事実及び関係書証によつて、被控訴人税務署長の担当職員から指導を受けた事実を認めるべきであると主張する。

しかしながら、控訴人が指導をした職員であるという林昭春証人は、当審において、当時控訴人の代表者と面談したことも、控訴人の第二期確定申告書を見たこともない旨証言するところ、その供述の内容及び態度から判断して、証言の機会が遅れたため記憶喪失に陥り右のような証言内容になつたとは到底解することができない。そうすると、仮に、被控訴人らに証明妨害の事実があつたとしても、その結果林昭春証人から控訴人が期待したような証言が得られなかつたとはいえないから、控訴人が主張するような証明妨害の法理に一応の合理性が認められるとしても、本件の場合はその前提を欠くものといわざるを得ない。そして、成立に争いのない甲第七号証によつては右指導の事実を求めるには不十分であるし、その外本件全証拠によつても、右事実を求めることができない。

したがつて控訴人の右主張は採用できない。」

4  原判決三五枚目表八行目の「金三五七一万五〇〇〇円」を「金三五七一万六〇〇〇円」と改める。

5  原判決三五枚目裏七行目の「支払利息」の次に「のうち第五期前の期間に係る部分(金七八〇万〇二七三円)」を、同九行目の末尾に続けて「なお、控訴人が冨田真及び冨田善美に対し支払利息として支払つた金員についても、前示のとおり支払利息たる根拠がないというべきであるから、右金員のうち第五期前の期間に係る部分については、同人らに対する贈与に該当するものというべきである。」を、同三七枚目表二行目の「ついて」の次に「所定の計算をして源泉徴収税額を算出した上、」をそれぞれ加える。

二  そうすると、右と同旨の原判決は相当である。

よつて、本件控訴をいずれも破棄することとし、控訴費用の負担について行政事件控訴法七条、民訴法九五条本分、八九条の適用して、主分のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒木美朝 裁判官 西岡宣兄 裁判官 喜多村治雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例